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杭州ロボットイベント訪問記:中国ロボット産業の現在に触れる

Shizuka Eguchiのプロフィール写真
Shizuka EguchiBackend Developer

文三未来科技体験センター訪問記。杭州六小龍をはじめとする中国ロボット産業の最前線と、コンシューマー向けから産業用、教育現場への浸透までをレポートします。

Banner of 杭州ロボットイベント訪問記:中国ロボット産業の現在に触れる

春の杭州・西湖区。文三数字生活街区のにぎわいの中に、中国の新たな生産力を象徴する最前線の展示空間があります。それが文三未来科技体験センターです。

この施設は深空ロボット未来世界とも呼ばれ、約800平方メートルの館内には、無機質なパネル展示や退屈なスペック表ではなく、実際に動き、触れ、体験できるロボット製品が数多く並んでいます。

展示されているのは、コンシューマー向けの家庭用ロボットから産業用の本格機まで、さらには四足歩行ロボットや高機能なヒューマノイドロボットまで多岐にわたります。杭州を代表するテック企業群である杭州六小龍をはじめ、中国ロボット産業を牽引する主要企業の中核的な成果が一堂に会していました。

杭州六小龍とは、杭州発の新興テック企業6社をまとめて呼ぶ通称です。2025年前後から中国メディアや公的機関系の記事で広く使われるようになり、杭州の新しい産業競争力を象徴する言葉として定着しました。一般に指す6社は、DeepSeekUnitreeBrainCoDEEP RoboticsGame ScienceManycoreです。

この施設は、杭州市科学技術協会と西湖区人民政府の指導のもと整備されたもので、単なる展示館にとどまりません。地元の技術成果の事業化、最先端技術の普及と教育、没入型の体験設計、さらにはビジネス導入のマッチングまでを担う総合的なテクノロジープラットフォームとなっています。杭州のデジタル経済を象徴する存在であると同時に、一般の来場者が最先端ロボット技術を間近に感じられる貴重な窓口でもあります。

ここでは、研究室の中だけにあった技術的ブレークスルーが、遠いニュースではなく、実際に目で見て、手で触れられる製品として存在しています。この空間を通じて、中国ロボット産業の成長と変化を、非常に生き生きと感じ取ることができました。また、ソフトウェアとハードウェアが融合し、現実世界の物理的なタスクを自律的に処理するPhysical AIの波が、すでに社会実装の段階に入っていることを強く実感しました。

まず目を引く四足ロボット群 Unitreeが切り開くコンシューマー市場

館内で最初に目に飛び込んできたのは、四足ロボットの展示エリアでした。その中でも特に存在感を放っていたのが、杭州六小龍の中核企業の一つであるUnitree Roboticsの展示です。

中国の四足ロボット分野を代表する企業であるUnitreeは、人気のコンシューマー向け四足歩行ロボットであるGO2シリーズを展示していました。

このシリーズにはAIR、PRO、EDUの3モデルがあり、家庭用、エンターテインメント、教育や研究用途まで幅広いシーンをカバーしています。機体重量はわずか15kgほどでありながら、最高速度は秒速5メートルに達し、最大12kgの負荷にも対応します。

同社がフルスタックで自社開発した運動制御アルゴリズムにより、ジャンプ、坂道走行、16cmの段差越え、障害物回避といった動作も滑らかにこなします。

Unitreeの真価はヒューマノイドにも G1が示す量産と商用化の到達点

Unitreeの技術力はコンシューマー向け四足歩行ロボットだけにとどまりません。今回会場で展示されていたヒューマノイドロボットであるG1シリーズは、同社が自社開発した全身型ヒューマノイドであり、中国において比較的早い段階で量産化と商業展開を実現したモデルの一つです。

G1は身長約130cm、バッテリー込みの重量は約35kgです。標準モデルでは23自由度の関節モーターを備え、教育向けのEDU版では23から43自由度まで拡張可能です。

片脚には6自由度、片腕には5つの基本自由度が与えられており、さらに力制御に対応した多指ハンドや手首自由度の追加も可能です。膝関節の最大出力トルクは120N.mに達し、Unitree独自の全身力制御システムと運動制御アルゴリズム、さらに3D LiDARや深度カメラなどの環境認識モジュールを組み合わせることで、高精度な動作制御とリアルタイムの姿勢安定化を実現しています。

会場では、このG1による定時のダンスパフォーマンスも行われていました。

演目では、上半身の協調動作、胴体のひねり、その場での旋回、しゃがみ動作、片脚への重心移動、複数関節を連動させたリズミカルな動きなど、複雑なモーションが連続して披露されていました。全体を通して動作のつながりは非常に滑らかで、関節の動きや歩幅の制御も安定しており、目立ったブレや姿勢崩れ、動作の破綻は見られませんでした。音楽のテンポに合わせて正確に同期していた点からも、この機体の高い多関節協調制御能力と動的バランス性能がうかがえました。

この機体は中国の春節聯歓晩会(Spring Festival Gala)の舞台でダンスパフォーマンスを披露したことでも知られています。今回の会場展示で見られた動作体系も、その公開パフォーマンスと同系統の運動制御技術に基づいているとのことでした。加えて、会場ではコントローラーを用いて動作を操作するデモも行われており、G1の安定性と柔軟性の高さをより実感することができました。

特殊環境に強い業務用四足ロボット DEEP Roboticsが切り拓く産業用途

Unitreeの展示エリアに隣接していたのが、同じく杭州六小龍の一員であるDEEP Roboticsのブースです。

Unitreeが四足ロボットのコンシューマー市場を切り開いた存在だとすれば、DEEP Roboticsは産業や特殊用途の分野を深く掘り下げ、この領域をリードしている企業だといえるでしょう。

会場ではJueyingシリーズの四足歩行ロボットが展示されており、体験版、探索版、プロ版、レーザー版まで、エントリー機から産業用上位機まで幅広いラインアップがそろっていました。価格帯も16,900元の入門機から89,000元の業務用機まで用意されており、用途に応じた選択肢が非常に明確です。

特に印象的だったのは、その全地形対応能力です。

雪上移動、複雑地形での巡回点検、高危険環境での作業などを想定した設計で、同社はコア技術をフルスタックで内製化し、約95パーセントの国産自主制御を実現しているとされています。すでに100件を超える業界プロジェクトに導入されており、発電所点検、工場警備、緊急救援、消防調査などの分野で実運用が進んでいます。四足ロボットが未来の試作品ではなく、産業や公共安全を支える実用的な道具になりつつあることを感じさせる展示でした。

小型でも高性能 智身科技の鋼鏰L1が示す細分化市場の進化

業務用四足ロボットの展示では、智身科技(GENISOM AI)の鋼鏰L1も非常に印象に残りました。

これは、特殊用途や業務用シーンに特化して設計された世界初の15kg級バイオミメティック四足ロボットで、小さな体に大きな力を体現するような製品です。

最高速度は秒速3.7メートルに達し、40度の急斜面や16cmの階段も登坂可能です。定格積載は8kgで、同クラス製品の中でも高い積載能力を備えています。さらにIP54の防塵と防水性能、0から40度での広い動作温度範囲、耐衝撃と耐外乱設計を備え、過酷な環境下でも安定した作業が可能です。

小型特殊四足ロボットというニッチ市場において、こうした製品がすでに具体的な完成度を持っていることは、中国メーカーが細分化された市場でも着実に技術を磨いていることをよく示していました。

もっとも華やかな展示エリア AgibotのヒューマノイドExpedition A2

AgibotExpedition A2は、2024年8月に正式発表された高機能サービス型ヒューマノイドで、中国のCR認証、EUのCE認証、米国のUL認証という三つの主要国際認証を同時に取得した世界初のヒューマノイドロボットとされています。身長169cm、体重69kgという人間に近いスケール感を持ち、対話や接客の場面でも自然な存在感があります。

全身には40以上の自由度を持つ生体模倣構造が採用されており、自社開発の一体型関節によって、滑らかな歩行、方向転換、物体操作、さらには太極拳やダンスといった複雑な動作まで実現しています。L4レベルの自律移動能力とマルチモーダルな対話システムも備えており、固定シナリオに依存しない柔軟な人間と機械のコミュニケーションが可能です。

特筆すべきは、この製品がすでに研究室を出て、実際の商業現場に入り始めている点です。

自動車販売店、企業ショールーム、商業展示会などで導入が進んでおり、ヒューマノイドロボットの商業利用が本格的な段階に入りつつあることを象徴しています。若年層向けモデルの価格が16.8万元に設定されている点も、高価格帯のヒューマノイドがより多くの商業現場へ浸透していく可能性を感じさせました。

産業用途で存在感を放つ国産協働ロボット JAKA RoboticsのZu12

ヒューマノイドエリアから産業用展示へ移ると、JAKA Roboticsの協働ロボットであるZu12が目を引きました。

中国の協働ロボット分野を代表するブランドの一つであるJAKAは、この中型協働ロボットを高負荷な産業現場向けに設計しています。

定格可搬重量は12kg、動作半径は1327mm、自重はわずか41kgで、自重と可搬重量の比率は業界トップクラスの3.4対1に達します。一体型関節構造により設置や保守も簡便で、安全柵なしでも作業者と協働できる設計が特徴です。

会場デモでは、組立、搬送、仕分けといった産業動作を高速かつ正確にこなしており、ツール先端速度は最大で秒速3メートルに達していました。一方で消費電力は500Wに抑えられており、高効率と省エネ性を両立しています。

すでに自動車部品、家電製造、食品加工などさまざまな業界で活用されており、中国製産業ロボットが輸入品の代替として存在感を高めていることがよく分かる展示でした。

教育と家庭への広がり UBTECHのalpha ebot

科普教育と家庭用ロボットの展示エリアでは、UBTECHのalpha ebotが、ロボット技術の社会実装の別の可能性を見せてくれました。

この教育家庭用ロボットは、中国で初めてロボット入学第一課の現場導入を実現した製品とされており、小中学校向けの教育コンテンツとビジュアルプログラミング学習システムを内蔵しています。自然音声による対話、生活モードの個別設定、詩のやりとり、物語の読み聞かせ、知識のQ&A、子どもの生活習慣形成支援など、多彩な機能を備えています。

価格は2,999元と比較的手ごろで、AI教育やロボット教育が一般家庭へ広がる可能性を十分に感じさせました。

産業用途だけでなく、教育や生活支援といった民生分野へとロボット技術が着実に浸透していることを示す好例だと思います。

ロボット単体では終わらない 杭州六小龍が示す技術連携の広がり

館内には実機のロボット展示だけでなく、杭州六小龍をテーマにした技術展示エリアも設けられていました。そこでは、ロボットそのものを支える周辺技術が紹介されており、中国ロボット産業の競争力が、単なる機械技術だけでは成り立っていないことを実感しました。

たとえば、DeepSeekのDeepSeek-V3のような大規模言語モデルは、ロボットに高度な対話や推論能力を与える頭脳として機能します。論理推論、マルチモーダル生成、人間らしい会話能力といった要素は、今後のロボット体験を大きく左右する中核技術でしょう。

また、BrainCoの非侵襲型ブレイン・コンピュータ・インターフェースやスマート義手は、脳波信号によって機械動作を制御する新しい人間と機械のインターフェースの方向性を示していました。さらに、Manycoreの没入型デジタル空間技術や仮想と現実の融合技術は、ロボットとバーチャル環境の連動を可能にし、応用シーンの幅を大きく広げています。

これらが同じ空間に並ぶことで、中国ロボット産業の成長が、精密製造、AIアルゴリズム、インターフェース、デジタルコンテンツなど、産業チェーン全体の連携によって支えられていることがはっきりと見えてきました。

中国ロボット産業の現在地 急成長の先に見える強みと課題

現在の中国ロボット産業は、きわめて大きな飛躍の時期にあります。

運動制御アルゴリズムやサーボ関節といったハードウェアの中核部品から、AI大規模モデルや環境認識システムなどの基盤ソフトウェアに至るまで、多くの国産企業がフルスタックの自社開発を進めており、製品によっては90パーセントを超える国産化率を実現しています。

同時に、中国ではすでに幅広い製品マトリクスと成熟した産業エコシステムが形成されつつあります。

数千元クラスの家庭用ロボットから数十万元の高機能ヒューマノイドまで、また15kg級の小型特殊機から高負荷型産業ロボットまで、価格帯も用途も非常に幅広い層がそろっています。さらに、ハード本体だけでなく、AIアルリズム、シナリオ別ソリューション、コンテンツエコシステムまで含めた全体構造が整ってきている点も大きな特徴です。

特に杭州六小龍のような地域産業クラスターは、長江デルタ地域におけるデジタル経済と先端製造業の相乗効果をよく示しています。こうした集積が、中国ロボット産業の継続的なイノベーションを支える重要な基盤になっていることは間違いありません。

一方で、課題が完全になくなったわけではありません。

高精度な先端部品の極限性能、ヒューマノイドの汎用知能、超ハイエンド産業ロボットの基盤技術など、今後さらに突破が求められる領域も残されています。

それでも、今回の文三未来科技体験センターで目にした数々の展示は、中国ロボット産業がすでに追いかける側から自ら潮流を作る側へと移りつつあることを、強く印象づけるものでした。

教育現場への浸透も進む ロボット産業の裾野の広がりを実感

今回の見学で印象的だったのは、館内で春の校外学習に訪れていた中国の中学生たちの姿です。展示を見学するだけでなく、実際にロボットの動作に強い関心を示し、スタッフの説明に耳を傾けながら積極的に体験に参加している様子が見られました。

この光景からは、中国においてロボット技術がすでに一部の研究者や企業関係者だけのものではなく、次世代を担う中学生の学習対象としても着実に浸透していることがうかがえます。

近年の中国では、人工知能、プログラミング、ロボットといった分野を早い段階から教育の中に取り込む動きが進んでいますが、文三未来科技体験センターのような施設は、その流れを支える実践的な接点としても機能しています。

産業振興の観点から見ても、こうした体験機会を通じて若年層の技術理解や関心を育てていくことは、将来の人材基盤を厚くするうえで重要であり、中国のロボット産業が単なる製品開発や市場導入にとどまらず、教育普及まで含めた形で裾野を広げていることを示しています。

おわりに:中国の躍進から日本のロボティクスが学ぶべきこと

今回の訪問を通じて、中国ロボット産業がソフトウェアとハードウェアを高度に融合させ、強固なエコシステムを築き上げていることを肌で感じました。では、私たち日本企業はこの状況から何を学び、どのように日本のロボティクスに活かすことができるのでしょうか。

日本は歴史的に、高精度な減速機やモーター、センサーといったロボットの関節を担うハードウェアコンポーネントにおいて、世界トップクラスの競争力と圧倒的なグローバルシェアを持っています。しかし、ロボットの脳となるAIモデルやソフトウェアプラットフォームの統合においては、中国企業のエコシステム構築のスピードに後れを取っているのが現状です。

今後、ロボット産業はパソコンやスマートフォンのように、ハードウェアとソフトウェアの水平分業が急速に進むと予想されます。中国の展示で見られたような、AIアルゴリズムやシミュレーション技術を駆使したソフトウェア主導の開発アプローチは、日本企業にとっても大いに参考になります。

日本の優れたハードウェア技術に、高度なAIモデルや仮想空間での強化学習といったソフトウェア開発力を掛け合わせることで、日本ならではの次世代ロボティクスソリューションを生み出すことができるはずです。デジタル空間に留まっていたAIが現実世界の課題を直接解決するPhysical AIの時代において、日本企業がソフトウェアとハードウェアのギャップを埋め、新たなビジネス価値を創出していくことが強く期待されます。